「クリエイティブのサイクルを信じて。」

Rasmus Faber新作「Seem to Last」でダンスミュージックの原点に立ち返る

Interview: Annabelle Glisson

スウェーデン出身のプロデューサー、作曲家、そしてマルチインストゥルメンタリストであるラスマス・フェイバーは、長年にわたり「音楽性」と「ダンスフロアのエネルギー」の交差点に立ち続けてきました。2000年代初頭、ソウルフルでジャズの要素を取り入れたハウストラック「Ever After」や「Divided / United」で注目を集めた彼は、その後『マクロスΔ』『Honor of Kings』『メタルギアソリッド』など、アニメやゲームの音楽制作にも携わり、ジャンルを越えた活動を展開しながらも、常に音楽性と感情を軸にした作品を生み出してきました。

自身のレーベル「Farplane」からリリースされた新曲「Seem To Last」では、ラスマス・フェイバーがクラブミュージックの原点に立ち返ります。ラテンハウスのリズムと生演奏、そしてどこか懐かしさを感じさせるボーカルフックが融合したこのトラックは、過去を振り返りながらも前へと進む、新たな章の幕開けを告げています。

今回のインタビューでは、進化し続ける創作プロセスや日本との深い関わり、そしてクラブシーンから一度距離を置いたことが、いかにして新たな視点とエネルギーをもたらし、彼を再びその世界へと導いたのかを語ってもらいました。

まずはじめに、あなた自身について少し教えてください。これまでの音楽の歩み、そしてそれが現在のあなたにどのようにつながっているのかを、読者にご紹介いただけますか?

Rasmus Faber:

僕はストックホルムでジャズピアニストとしてキャリアをスタートし、セッションミュージシャンや音楽ディレクターとして活動していました。でも2000年代初頭に、偶然のような形でハウスミュージックの世界に引き込まれたんです。最初に「Never Felt So Fly」という曲をリリースしたのですが、それが思いがけず大きな反響を呼びました。それをきっかけに「Ever After」が生まれ、自分にとって代表曲のような存在になりました。この曲が、ツアーやリミックスの仕事、そして最終的には自身のレーベル「Farplane」の立ち上げにつながっていったんです。

その後は、ジャズを続けながらアニメやゲームのサウンドトラック制作、オーケストラ作品のプロデュースなど、活動の幅を広げてきました。

でも、僕の中で音楽の出発点はいつも同じです——それは音楽性、感情、そして物語性なんです。

これまでのキャリアの中で、特に印象に残っている挑戦は何ですか? そして、その経験を通じてどのように成長されたのでしょうか?

Rasmus Faber:

大きな挑戦の一つは、クラブミュージックの世界で自分がある種の「行き止まり」に達したと感じたときです。それまでうまくいっていたスタイルのバリエーションを続けていくこともできましたが、創作面では物足りなさを感じていました。そこで、一歩引いて、映画やゲームのスコア制作、ジャズの再解釈といった新しい領域に挑戦し始めたんです。

最初は慣れない分野で戸惑いもありましたが、その経験が音楽に対する視野を大きく広げてくれました。技術的な成長はもちろん、感情面でも大きく成長できたと思います。そして今、再びダンスミュージックに戻ってきたことで、その音楽が以前とはまったく違った新鮮さを持って感じられるようになったんです。

今回の新作は、あなたの代名詞とも言えるダンスミュージックのサウンドへの“原点回帰”となっています。再びこのスタイルに戻ってきた理由、そして「Seem To Last」を制作するにあたってのインスピレーションについて教えてください。

Rasmus Faber:

十分な時間が経ったと感じたんだと思います。感情的にも、自分の中のあの部分を違った角度から見つめ直す準備ができていました。「Seem To Last」はその振り返りから生まれました。とてもシンプルなピアノのモチーフから始まったのですが、心に残る輝きがありました。それをゆっくりと育てて、息を吹き込みながら発展させ、そこにハウスの要素を重ねていったんです。

ある意味で、これまでの自分の経験すべてをクラブミュージックに持ち帰るような作品ですね。

このシングルは、フルアルバムへとつながる一連のリリースの第一弾だそうですね。プロジェクトのビジョンや、これまでの制作過程についてもう少し教えていただけますか?

Rasmus Faber:

アルバムは「記憶の反響」というテーマを持った作品になりそうです。時間を経て感情がどのように響き続けるのかを表現しています。暖かみのあるアコースティックな質感とクラブのエネルギーが絶妙に絡み合う作品になると思います。

それぞれのトラックはピアノや何か触覚的なアイデアから始まり、そこにシンセサイザーや生演奏、電子的なプログラミングを重ねて構築していきます。感情的で誠実、そして少し予測できない要素も持つような、生きている物語のように呼吸し、進化する作品にしたいと考えています。

「Seem To Last」で表現したかった感覚はどんなものでしょうか? また、リスナーにどんな印象や感情を持ち帰ってもらいたいと考えていますか?

Rasmus Faber:

タイトルが示す通り、「もっと続いてほしかったのに儚く消えてしまうもの」という感覚を表現しました。ノスタルジックでありながら、どこか希望も感じさせる、ほろ苦い雰囲気です。もちろんクラブでも機能する曲にしたかったですが、それだけでなくリスナーがもっと深く何かを感じられる余地も持たせたかったんです。

理想を言えば、この曲を聴いた人が、良い思い出でも悪い思い出でも、自分の中に今も残っている瞬間に引き戻されるような、そんな体験をしてもらえたらと思います。

長年にわたり日本との深い関わりを持っていらっしゃいますが、日本の文化や日本人アーティストはあなたの音楽にどのような影響を与えましたか? いくつか具体的なインスピレーションの例を教えていただけますか?

Rasmus Faber:

日本は僕にとって、芸術的にも個人的にも非常に大きな影響を与えてくれました。日本の音楽には、細部へのこだわりや感情の繊細さ、そして芸術的な深みがあって、それがとても心に響くんです。日本でのライブパフォーマンスは、人生の中でも特に印象深い瞬間のひとつです。

アニメの音楽制作も、謙虚な気持ちにさせられると同時に、大きな刺激にもなりました。ここは、自分の多様な音楽性が共存できる場所だと感じています。

ジャズからアニメやゲームのサウンドトラックまで、さまざまなジャンルでの活動をされていますが、その多様な経験はダンスミュージックに戻る際のアプローチにどのような影響を与えていますか?

Rasmus Faber

さまざまなジャンルでの経験が、より広いパレットと自由を与えてくれています。ジャズの制作では「間」やニュアンスについて学びましたし、アニメの音楽制作ではテーマや感情の展開の仕方を学びました。ハウスに戻るときは、もはや決まったフォーミュラに縛られることはなくなりました。曲の感情に合うなら、ストリングスのアレンジや予想外のハーモニーの変化も使えます。

日本でのライブパフォーマンスやDJツアーの予定はありますか?ファンが楽しみにできる情報を教えてください。

Rasmus Faber:

はい、現在いくつか計画しています。クラブとコンサートの境界を曖昧にするようなDJセットやライブパフォーマンスを予定しています。また、Dolby Atmosをベースにした携帯型のサラウンドセットアップも構築中で、特別なイベントで活用するかもしれません。

日本はいつも僕の音楽を本当に応援してくれているので、直接お会いできるのをとても楽しみにしています。

ご自身のレーベル「Farplane」について、あまり知られていないけれどぜひ知ってほしいことは何ですか?

Rasmus Faber:

多くの人は僕の初期の作品でFarplaneを知っていると思いますが、実は裏側ではかなりユニークな会社になっています。チームには多くのメンバーがいて、さまざまな媒体向けに音楽制作を行っています。

そのおかげで、僕は創作の部分に集中できるし、大きなプロジェクトにも対応できるんです。Farplaneは、クリエイティブな実験室でありながら、同時にビジネスエンジンの役割も果たしています。

最後に、読者の皆さんに一つだけメッセージやアドバイスを伝えるとしたら、どんな言葉を贈りたいですか?

Rasmus Faber:

自分の創造のサイクルを信じてください。行き詰まったり、昔の自分から離れているように感じる時期があっても、それは失敗ではなく、プロセスの一部です。最初は意味が分からなくても、とにかく作り続けてください。やがて、自分でも気づかなかった道が形作られていきます。

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すべては一つの言葉、「What You Feel」から始まった。