「人生そのものがパッチワークであるというコンセプトを探求しています。」

MNDSETとCYRRCAが『Patchwurk: “The Love Stitch Remix”』がどのように誕生したのかを語る

Interview: Félicie Zufferey

長年の友人であり、東京とソウルを拠点に活動するコラボレーター MNDSET + CYRRCA は、「つながり・平和・そしてグッドビート」という“World Tribe”の哲学を通じて出会った。彼らのイメージ豊かなフローは、ジャンルを横断するアルバム『Patchwurk: The Love Stitch Remix EP』全体でリズミカルに行き来する。

彼らのデビュー作となるこのEPは、世界中の才能あるプロデューサーたちによって縫い合わされた、まさに音のモザイク。5曲の「Love Stitch」リミックスが、ローファイ・ヒップホップ、ハウスの感覚、そしてクラブ仕様のダンスフロア・リズムへと鮮やかに展開されている。

音楽を通して表現の糸を解きほぐしながら、MNDSET + CYRRCA は“エネルギー・つながり・愛”をベースとしたムーブメント創造の深い意味を探求している。本インタビューでは、ふたりのコラボレーションと、この特別なリリースに至るまでの旅路について語ってもらった。

これまでの音楽的バックグラウンドについて教えてください。どのように音楽を始めて、今回の『PATCHWURK: THE LOVE STITCH REMIX』EPはご自身のキャリアの中でどのような位置づけになりますか?

MNDSET + CYRRCA:

17年ほど前、ソウルのイテウォンにあるアートハウス「RUFxxx」で出会いました。そこは当時、クリエイティブの中心地のような場所でした。初めて会った瞬間から「これは運命だ」と感じたし、すぐに意気投合しました。僕たちは共に若くしてアジアに渡り、旅することが当たり前のような“同じ部族”の出身だったんです。お互いのビジョンをすぐに理解できる、そんな化学反応があった。

このEPのタイトルがすべてを語っています。経験、感情、サウンドといった異なる「ピース(布)」を、愛で縫い合わせていく──それが『Patchwurk』というプロジェクトです。すべては、僕たちの初めての音楽的コラボ「Love Stitch」から始まりました。

そこから、僕たちの友人たちによる美しい再解釈のコレクションへと発展しました。このEPに参加してくれた全員が、独自のトーンと雰囲気を持ったリミックスを作ってくれて、それぞれに異なる個性があります。それでも、「Love Stitch」のオリジナル・コンセプトがすべてのトラックにしっかりと息づいているんです。

すべての曲は、あの出会いの瞬間に芽生えた“エネルギー”で縫い合わされている。それこそが僕たちの核なんです。

この17年間、僕たちはただ楽曲を作るだけではなく、それ以上のものを築いてきました。僕たちが作り上げてきたのは、“World Tribe”というムーブメントです。それは僕たちのエネルギーを反映したサウンドであり、ただの音楽ではありません。

お互いを長く知ってはいましたが、本格的に音楽的に深くつながり始めたのは、「Love Stitch」のシングル制作時、ちょうどコロナ禍の頃でした。2021年頃は、お互いにビートやフローを電話で送り合いながら、日本と韓国でのコロナの状況について情報をシェアするような日々が続いていました。世界中が困難な時期でしたが、僕たちにとって音楽的な会話は、心の避難所のような存在だったんです。

「Love Stitch」のデモが進む中で、Facetimeを通じてスタジオ同士をつないだセッションも行いました。MNDSETは東京のB.E.S.T. StudiosでDouble Hと、CYRRCAはソウルのEast Seoul StudiosでB.A. Wheelerと作業を進めました。

さらに、韓国人アニメーターのMiraeさんと一緒に、MV(ミュージックビデオ)でも「Love Stitch」の世界をビジュアルで表現しました。対面で会うことができなかったので、ソウルと東京をつなぐファンタジーのような“World Tribe Universe”をリモートで共同演出しました。直接会わずに楽曲と映像を共に制作したにもかかわらず、心の距離はむしろ近づいた気がします。

コロナが落ち着いてからは、ソウルと東京を行き来して、直接会って曲を作ったり、スタジオでレコーディングしたりするようになりました。僕たちは即興性を大事にしていて、スタジオでは自由にアイデアを出し合いますが、その中にも自分たちなりのメソッドが確立されています。最初から自然体で始まったこのプロジェクトは、今でもオーガニックな形で進化を続けています。

MNDSET + CYRRCA:

初のシングルとして「Love Stitch」をリリースしたのは、僕たちにとって本当に楽しい体験でした。そして、そのすぐあとにはごく自然な流れで、「Love Stitch」のリミックス集を作ってみようという話になったんです。幸運なことに、僕たちの周りには本当に才能あふれる仲間たちがたくさんいて、そこから声をかけ始めました。すると、あっという間に素晴らしいリミックスたちが届き始めて——まさに魔法のような流れでした。

最初に届いたリミックスは、イギリスのDon Ravoによるもので、彼がCYRRCAに送ってきたのは、ぶっ飛んだジャングルリミックス。これが「Elevate Within」というトラックになりました。MNDSETはベルリン時代からSuff Daddyと長年の付き合いがあり、何度もコラボしています。彼はこの曲をとても気に入ってくれて、まさに彼らしいヴィンテージ感あふれるサウンドで新たなエネルギーを吹き込んでくれました。それが「Communicate Energy」です。

The Magus Projectによる「We Are Free」は、レコードの中でもハイライトの一つ。フロア直行のダンス・バンガーです。153 Remixは、ハウス・プロダクションと鋭いベースラインで「Stitched In」をまったく別の宇宙へと連れていってくれました。

そしてラストを飾るのは、南国の風とレゲエの残響を感じさせるImranauxによる「Horizon Floating」。まさに夕焼けのように美しく締めくくってくれる一曲です。

このEPの全トラックに共通しているのは、オリジナルの「Love Stitch」のコンセプトがそれぞれのリミックスの中にしっかりと息づいているということ。すべてのトラックが、あの出会いから生まれたエネルギーで“縫い合わされた”作品なんです。

CYRRCA - Photo by Nikolai Ahn

このEPのインスピレーションや動機は何だったのでしょうか?特に探求したいテーマやコンセプトがあれば教えてください。

MNDSET + CYRRCA:

親しい友人が別の国に住んでいると、時にはつながりが薄れてしまうように感じることもあります。でも僕たちは、音楽を通して思い出や経験、音や感情といったバラバラの断片を“縫い合わせる”ことができました。

このEPを作るうえで一番の動機になったのは、「愛」が僕たちのすべての行動にどのように働いているのかを表現したい、という想いです。それは恋愛だけではなく——創作への愛、仲間への愛、そしてプロセスそのものへの愛。その「愛の感覚」をどうすれば形にできるか?スピーカー越しに伝えるにはどうすればいいか?そう問い続けながら制作しました。

この作品は、これまでの歩みと、これからどこへ向かうのかという視点から生まれました。17年続いてきた兄弟のような関係のなかで、「このすべてのピースをリミックスとして再構成し、ひとつの物語として伝えられるのでは?」というインスピレーションがふと降りてきたんです。

“Patchwurk”や“Love Stitch”というコンセプトには、僕たちの母親たちの存在が深く関係しています。会話の中で、お互いの母親が裁縫やキルトを大切にしていると気づいたとき、ドイツとミシガンという離れた土地でも、同じように「愛を込めて縫う」という思いが共通していることに感動しました。そこから生まれたのが、オリジナルの楽曲「Love Stitch」です。

リミックスたちを1つの作品としてまとめるとき、「Love Stitch Remixes」では足りないと感じたんです。それぞれの曲が独立した音の宇宙を持っていたから。もっと広い意味を込めたタイトルが必要だと思って、“Patchwurk”という言葉にたどり着きました。これは、母たちのキルトへの想いともリンクしていて、曲のステムもまるで布のようにパッチされている。そのイメージとぴったり重なりました。

僕たちが探求しているのは、「人生そのものがパッチワークである」ということ。人は、さまざまな経験や出会い、葛藤や喜びなどでできていて、それらが“愛”という糸によって縫い合わされ、美しく意味のあるものになる。このEPのすべてのトラックは、それぞれが僕たちの物語の一片でありながら、“Love Stitch”がすべてをつないでいます。

MNDSET - Photo by Ethan Tran

これまでのプロジェクトと比べて、アプローチや制作プロセスに大きな変化はありましたか?

MNDSET + CYRRCA:

コロナ禍は、僕たちの制作プロセスに大きな影響を与えました。気づいたのは、東京やソウルという未来的でクレイジーな都市にいながら、それぞれの忙しい日常を送りつつも、最高の作品が作れるということ。むしろそういった環境が、インスピレーションの源になっていて、常にビートやデモを送り合って創造の流れを保っています。

最近は、東京とソウルを頻繁に行き来していて、そのたびにスタジオにこもって夢中でトラックを作っています。まるでひとつの意識でリアルタイムに創作しているような感覚があって、僕たち独自のフローができてきました。

また、スケジュールや完成形にこだわるのではなく、17年にわたる信頼関係に身を任せるようになりました。だから、エネルギーが乗っている日は12時間ぶっ通しで制作したり、逆に「今日は違う」と感じた日は、思い切って手を止めたり。以前のプロジェクトでは曲同士の一貫性を意識していたけれど、今回はむしろ“Patchwurk(パッチワーク)”のコンセプトを全面的に取り入れて、それぞれの楽曲が異なる質感や物語、ムードを持った「ひとつのパッチ」になるようにしました。全体をつなぐのは、もちろん“Love Stitch”という愛の糸です。

今回の制作で最大の変化は、「新しい音楽を作る」というよりも、僕たちの17年にわたる旅路そのものを“リミックス”するという視点を持ったことです。昔のアイデアや音、会話を今の自分たちのスキルと感覚で再構築する——そんな有機的なプロセスは、リラックスしながらも、驚くほど集中力のあるものでした。

このEPを聴いたリスナーに、どのような気持ちになってほしいですか?また、どんなメッセージを受け取ってほしいと思っていますか?

MNDSET + CYRRCA:

僕たちが伝えたい感情とメッセージは、まさに World Tribe: Keep the World Alive(ワールドトライブ──世界に命を吹き込もう) という一言に尽きます。リスナーのみなさんには、愛を軸にしたWorld Tribeのフィロソフィーを感じてほしいんです。

この作品を通じて、僕たち二人の心がひとつになって生まれたクリエイティビティと、あたたかくて真摯な感情が伝わったらうれしいです。そして何より、自分自身の“パッチワーク”に気づいてもらえたらと思っています──人生の中に散らばる思い出、人とのつながり、困難や成長。それらが愛という糸で縫い合わさって、ひとつの美しいものになっているということを。

完璧じゃなくても、美しいものはつくれる。大切なのは、流れを信じること。バラバラに見えるかけらを受け入れて、そこに“愛”という糸を通していくことなんです。

日本とのつながりや、今後日本の音楽シーンに関わる予定はありますか?

MNDSET + CYRRCA:

日本、韓国、デトロイト、ベルリン、ロンドンのシーンは、僕たちの音楽のパレットにとって大きな影響を与えています。これらは僕たちにとって物理的にも音楽的にも「故郷」のような場所です。アジアに移り住んで以来、世界中の様々なシーンのアーティストと積極的に制作やコラボレーションを続けてきました。

どの場所でも、みんながそれぞれ違うアプローチで作品作りに取り組んでいるけれど、限界を押し広げようとする熱意は共通しています。僕たちは、異なる文化やサウンド、ストーリーが混ざり合ってまったく新しいものになる、そういった長くて催眠的な創作の旅にこそクリエイティビティが息づくと思っています。そうした国際的な融合こそが、僕たちが惹かれるものです。

最近は韓国のSeoul Community Radio (SCR Radio)でライブを行い、その場の生のエネルギーを強く感じることができました。現在は日本でのパフォーマンス計画を進めていて、近いうちに詳細をお伝えできると思います。

また、東京のB.E.S.T.レコードやDouble Hとも一緒に、日本のアーティストといくつかのトラックを制作しており、とても楽しみにしています。僕たちの友人関係もグローバルで、音楽シーンの国境を越えた橋渡しをこれからも続けていきたいと思っています。こうした繋がりや音の交流は、多様な音楽言語をひとつに結びつける糸のようなものです。


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